2012年07月01日

漢方は長寿社会にどのように役立っているか

◆世界一の長寿社会を迎えて

わが国は短期間に世界一の長寿国になりました。ある予測では、介護を要する人は、2025年には520万人に達すると言われ、これが現在の介護保険制度導入のきっかけになりました。この長寿社会では、一方に65歳以上のうち、お世話を要する人が約13%ありますが、これを逆に見れば、その7倍の「健康でファイトがあって、円熟した頭脳と豊富な経験を持った高齢者」が増えることと考えられます。このような長寿社会にあって、多くの高齢者の願いは、「すこやかに、ファイトをもって生き抜き、最後は病気や痛みに苦しめられず、有終の美を飾って人生を終わりたい」というものでしょう。また、これこそが長寿社会の理念でなければなりません。この長寿社会では、単なる延命ではなく、QOL(命の質)の維持向上こそが最も大きな目標となります。

◆長寿社会と漢方

高齢者のQOLを支える最大の要素は健康です。高齢者はいくつかの病気を持っているのが普通ですが、これまでの西洋医学は専門分野別に細分化されて発展してきましたから、病気や症状ごとに診断治療を受けるのが通例で、病人を全人的に捉える考え方は希薄でした。しかし、高齢者の治療ではこのような方法では、治療がうまくゆかないばかりか薬の副作用が出る恐れすらあります。高齢者は、まず全身状態を総合的にとらえ、その立場から治療方針をたてることが不可欠です。この視点は漢方の考え方に合致します。 漢方の基本的立場では、一人の人間を心身両面から総合的に捉え、多くの病気や症状を総合的に見ることを目指します。この漢方の考え方は、長寿社会において大いに役立つでしょう。

◆高齢者には漢方独特の効果が有用

漢方にはまた、西洋医学にない独特の考え方と治療薬があり、高齢者に有用です。
<高齢者の生理的特徴と漢方の対応>
@老化は個人差が大きい
A同じ人でも身体の部分ごとに老化の程度に差があることが多い
B全身の新陳代謝低下傾向がある
C生理機能全般に低下傾向がある
D体内水分量減少傾向がある
などが挙げられます。

漢方では個人個人の病気や症状を細かく配慮して、個人差に応じた治療方針を立てることが基本ですから、当然@、Aに対応することになります。漢方では病人の状態を陰陽および虚実に分類します。陰とは新陳代謝低下状態B、虚とは生理機能低下状態Cに相当します。陰に対しては生薬・附子(ぶし)を含む八味地黄丸や真武湯などが用いられ、また虚に対しては薬用人参などを含む補中益気湯や十全大補湯などが用いられますが、これらは実際に高齢者に大変有効です。

体内水分量減少Dは、高齢者では顕著ですが、これは漢方で枯燥と呼ぶ病態に相当し、これにも滋潤剤と呼ばれる漢方薬(十全大補湯、八味地黄丸、麦門冬湯など)が用意されています。
高齢者では以上のほかに、病気や症状にも特徴があり、これにも漢方が有用です。

<高齢者の病気や症状の特徴と漢方>
高齢者の病気の特徴としては
@複数の慢性病に罹患している人が多い
A病気への抵抗力(免疫)が低下していることが多い
B社会的家庭的に阻害され、精神的に抑うつ不安傾向が潜在していることが少なくない
C原因不明で検査値に異常の出にくい症状を抱えていることが多い
などが挙げられます。

@については、漢方薬には多彩な効果があり、慢性疾患にも対応できますから、適切な漢方薬を選択して用いれば、一つの漢方薬で複数の慢性疾患に対応できます。これは医療費の節減にも役立ちます。
Aは、病気にかかりやすく治りにくいことなどを意味しますが、ある種の漢方処方(補中益気湯、十全大補湯など)には免疫能を高める作用のあることが科学的研究から実証されています。
Bについても、漢方薬は心身両面に働き、軽症うつ状態に有効なことが知られています。
Cについては、明確な診断ができないときでも、症候に応じて漢方治療を開始することは可能であり、これにも対応できるといえます。

以上の中でも、補中益気湯や十全大補湯は、高齢者の治療に特に重要です。これらは補剤と呼ばれる漢方薬の仲間です。補剤は、体力を補い、栄養状態改善と免疫能増強を通じて治りにくい慢性病に有用です。西洋医学に対応する薬がありませんので、重要な漢方薬です。

◆高齢者への漢方薬使用上の注意

高齢者では悪性腫瘍などの重大な病気が隠れていることもありますので、漢方治療中でも健康診断を定期的に行うなど、十分な注意が必要です。また、高齢者に副作用の出やすい漢方薬が幾つかありますので、これにも注意が必要です。
高齢者に用いる上でもっとも注意が必要なのは、生薬・麻黄(マオウ)を含む漢方薬です。これは、葛根湯、麻黄湯、小青竜湯、麻杏甘石湯、五虎湯、越婢加朮湯、麻否薏甘湯、神秘湯などです。これらは、狭心症や心筋梗塞などの心臓病のある人、著しい高血圧の人、重い腎機能障害のある人、胃下垂で胃腸虚弱な人などには慎重に用いる必要があります。

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posted by 担当者 at 00:00| 長寿社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする